World Barista Championship
Finals Presentation Analysis
2024 WBC ファイナル概要
2024年ワールドバリスタチャンピオンシップは、World of Coffee Asia初開催の地として韓国・釜山(BEXCO)で開催。50カ国以上の代表が参加し、Round 1 → セミファイナル(上位15名+ワイルドカード1名)→ ファイナル(上位6名)の3ラウンドで競い合いました。各ラウンドのスコアはリセットされ、ファイナルの得点のみで最終順位が決定します。以下は、ファイナルラウンドに進出した6名のプレゼンテーション分析です。
※ 1選手あたり合計44分のステーション割当。テーブルセット開始時に待機していなければ失格の可能性あり。
2024年 競技ルール要点
3カテゴリ × 4杯 = 計12杯
エスプレッソ・ミルクビバレッジ・シグネチャービバレッジの各カテゴリ4杯を4名のセンサリージャッジに提供。提供順は自由だが、1カテゴリを完了してから次に移る必要あり(違反で失格)。
15分 + 減点制
パフォーマンスは最大15分。超過1秒につき1点減点。16分を超過すると即失格。シグネチャーの仕込みのみ競技時間中いつでも可能。
審査体制(ラウンド別)
Round 1:センサリー4名+テクニカル1名+ヘッド1名。
セミファイナル・ファイナル:センサリー4名+ヘッド1名(テクニカルなし)。ヘッドジャッジがStation Management・清潔さを代行評価。
マシン設定
圧力 8.5–9.5 bar、温度 90.5–96℃。グループヘッドごとに温度選択可能。スポンサー提供マシン(La Marzocco)・グラインダー(Mahlkönig)必須使用。追加電気機器は2台まで。
ミルクビバレッジ定義(2024更新)
無香料・無加糖の市販ミルク(動物性・植物性問わず)のみ使用可。ブレンドも認可。凍結蒸留による濃縮も許可。ミルクへの添加物は不可。
シグネチャービバレッジ
エスプレッソベース必須。アルコール禁止。全材料の原包装をジャッジテーブルに提示。独創性・味・バランス・プレゼンテーションを評価。
評価スケール
Yes/No判定、0–3(精度・印象)、0–6(体験評価)の3タイプ。2024年変更:タクタイル体験が後味評価から独立分離。タイブレークはエスプレッソのセンサリースコア→ミルク→総合印象の順。
ラウンド構成
Round 1(全選手)→ セミファイナル(上位15名+Team Barワイルドカード1名)→ ファイナル(上位6名)。各ラウンドのスコアはリセット。ステーションレイアウトは9種から選択。
Mikael Jasin
競技会から離れていた時期に出会った「マインドフルネス」の実践をテーマに構成。かつて心に火を灯していたものが燃え尽き症候群を引き起こしかけた経験から、「今この瞬間に完全に存在する」というマインドフルネスの哲学を見出した。コース順を「ミルク(心/Mind)→ シグネチャー(体/Body)→ エスプレッソ(魂/Soul)」と独自に構成し、各コースの間にジャッジと共に会場を歩き回り、目を閉じて深呼吸する瞑想的な演出を取り入れた。パーソナルカラーコードや質感の異なるカップなど、五感すべてに働きかける没入型プレゼンテーション。最後のエスプレッソを「魂との再接続」として、他の材料のノイズを一切排除したパナマ・ゲイシャの純粋な表現で締めくくった。
Milk Course(第1コース:心 / Mind)
ミルクの設計思想:「シグネチャーコースのようにミルクコースに取り組む」。3種のミルクを「材料」として使い、乳牛ミルクの乳糖が甘さのベース、カシューミルクがコーヒーと合わさってピーチリキュールのフレーバーを生成、オーツミルクのモルト感とカシューのナッツ感が「マジパン」のセイボリーフレーバーを作り出す。フードプロセッサーで水分を20%蒸発させ、デザートのような少量のミルクビバレッジを実現。
提供:50gのミルクに対してエスプレッソ1ショット。ラテアートを描いて提供。
Signature Course(第2コース:体 / Body)
材料構成
演出:カップの底はザラザラ、唇に触れる部分は滑らか。「滑らかさは粗さとの比較においてのみ真に評価できる」というマインドフルネスのメッセージ。ジャッジに目を閉じて深呼吸させ、カップの触感を感じさせてから飲む指示。
Espresso Course(第3コース:魂 / Soul)
演出:最後にジャッジと共にもう一度歩き、目を閉じて「青々と茂ったコーヒー農園」を思い浮かべさせる瞑想的な時間を設けた。メニューカードが配置され「何も書き留める必要はない」と伝え、マインドフルネスの実践に集中させた。
SCORING ディスクリプター充足度チェック
※提供順:ミルク(第1)→ シグネチャー(第2)→ エスプレッソ(第3)
Jack Simpson
「完璧さの追求」が不安と足かせになっていた経験から、「絶え間ない改善」という新しい哲学へ転換。昨年の「オートコーム」「振動テーブル」という抽出前プロセスの探求に続き、今年は抽出後(Post-extraction)に焦点を当てた。船のバラスト水処理技術を開拓するゲイリーとのコラボレーションで、500Hzの超低周波電磁波(ULF波/ウェーブ)をエスプレッソに適用。ポリフェノールの分子結合を促進し苦味を減少・甘味知覚を増加させるという画期的な技術を披露。2人の生産者(ジャミソン・サベージとジョナサン・ガスカ)と共に「絶え間ない改善の道」を体現したプレゼンテーション。
Espresso Course
ウェーブ技術の科学:エスプレッソの90%は水。ULF波で水分子にエネルギーを与え振動させると、カフェインなどのポリフェノールが結合してより大きな分子鎖を形成。これにより一部の苦味が味覚の検知から逃れ(表面積が減少)、甘味の知覚が増加する。「波」は抽出時間やドーズ量と同様の調整可能なツール。
提供:縁の厚さが変化するカップで提供。薄い側がゲイシャのジューシーなテクスチャーを際立たせる。
Milk Course
ミルクのウェーブ処理:エスプレッソ中でポリフェノールが結合したように、ミルク中では「脂肪球」が結合。脂肪球はミルクのテクスチャーに大きな役割を果たし、結合させることで溶けたアイスクリームのような豊かでクリーミーなテクスチャーが実現。
焙煎:ロースターのマットと7年以上のコラボレーション。ディベロップメント23%・11分間の長めの焙煎で甘みと溶解性を最大化。
Signature Course
ゲイシャ2ショット+パカマラ2ショットのデュアルベース構成。ジャミソンのコーヒーの甘みを際立たせつつ、ウェーブ技術を発酵プロセスに応用する「未来の可能性」を示した。
材料構成
SCORING ディスクリプター充足度チェック
石谷 貴之(Takayuki Ishitani)
バリスタとして20年の旅路を経て「理想が最もバランスの取れた形で実現した」瞬間をテーマに構成。パナマ・フィンカ・デボラのゲイシャ(驚くべき触感)とコロンビア・フィンカ・ミランのカトゥーラ(爆発的なフレーバー)という2つの対照的なコーヒーを軸に、エスプレッソ=ゲイシャ16g+カトゥーラ2g、ミルク・シグネチャー=カトゥーラ17g+ゲイシャ2gとブレンド比率を反転させることで、各コースの目的に最適なバランスを追求。スコアシート順(E→M→S)で提供し、安定した構成力を見せた。
Espresso Course
Milk Course
理想の追求:ミルクとエスプレッソの完璧な調和。カトゥーラの爆発的フレーバーは甘いミルクの中でも際立つ力強さを持つ。
Signature Course
カトゥーラ17g + ゲイシャ2g → 40g抽出。カトゥーラの爆発力とゲイシャのエレガンスのシナジーを追求。一口目と二口目で異なる口当たりの体験を設計。
材料構成
SCORING ディスクリプター充足度チェック
川島 ほのか(Honoka Kawashima)
日本で育った折り紙の思い出から着想し、コーヒーの精製プロセスが折り紙のように「層」になっていることをメタファーに構成。コーヒーを擬人化し「マリア(マラゲイシャ種)」と名付け、品種の複雑な情報をシンプルに親しみやすく伝える独自のアプローチ。ジャッジと一緒に実際に折り紙を折りながらプレゼンテーションを進行し、テロワール・精製・焙煎の各層を一折りずつ明らかにしていった。最後に折り紙を開くとハート型になり、「コーヒーへの愛」というシンプルで力強いメッセージで締めくくった。コース順はM→S→E。
Milk Course(第1コース)
Signature Course(第2コース)
材料構成
Espresso Course(第3コース)
SCORING ディスクリプター充足度チェック
※提供順:ミルク(第1)→ シグネチャー(第2)→ エスプレッソ(第3)
イム・ジョンファン(Im Jeonghwan)
ディスプレイの基本構成要素「ピクセル」をメタファーに使用。ピクセルを細分化すれば画像がきめ細かくなるように、コーヒー作りの工程を洗練させれば味わいが向上するという概念を展開。発酵プロセスの緻密な管理、振動モーター内蔵ディストリビューションツール、ロータリーエバポレーターによるミルク濃縮など、各プロセスの「解像度を上げる」アプローチ。シグネチャーでは「ピクセルを組み合わせる」概念で3つの材料が精製・焙煎・抽出を表現。コース順はE→M→Sの標準順。全コース同一豆(スダンルメ種)。
Espresso Course
振動ディストリビューション:一般的なディストリビューションツールに「振動モーター」を内蔵。コーヒーベッドを振動させ粉をより均等に分散・完全に平らにすることで、より高い甘さとより滑らかなテクスチャーを実現。
温水パレットクレンジング:テイスティング前にジャッジに温めたお水を提供。味覚を温め、口と鼻を活性化させ、よりクリアな味わいと香りのために感覚を高める。
Milk Course
Signature Course
材料構成
提供:4ショットのエスプレッソ含む全材料を40℃にプレウォーム。ワイングラスで温かく提供。
SCORING ディスクリプター充足度チェック
Ian Kissick
ロンドンで経営するカフェ「フォーマティブ・コーヒー」の名前の由来である「フォーマティブ(形成的な)体験」をテーマに構成。「ソーシング(調達)→ ロースティング(焙煎)→ ブリューイング(抽出)→ エバリュエーション(評価)」の4ステップのサイクルを軸に、各コースで新たな要素を追加していく教育的プレゼンテーション。WBCにインスピレーションを得た「テイスティング・プロトコル」を自店に導入している実践を共有し、バリスタとゲストの共同作業としてのシグネチャードリンクで締めくくった。コース順はE→M→Sの標準順。
Espresso Course
抽出前処理:ブラインドタンブラーに挽き入れ→シェイクで「高密度化(デンシフィケーション)」。粗い粒子の隙間に微粉が閉じ込められ、より密度の高いパック→均一な抽出。
抽出後処理:凍らせた球体「ニュークリアス・パラゴン」を通して抽出。揮発性芳香化合物を捉え、一般的なお茶のノートが明確な「グリーンティー」に変化。
Milk Course
伝統と革新の融合:ジャージー牛乳が「伝統」、オーツミルクが「革新」を象徴。このビバレッジは伝統でお客様を引き込み、革新を通じてコーヒーに対する考え方を変える。
Signature Course
カフェのお客様をバーカウンターに招き入れ、コーヒーをテイスティングしてもらい、材料を提案してもらった「共同作業の賜物」。
材料構成
提供:3Dプリンター製ショットスプリッターで均等分配。細ステムのギムレットグラス(フレーバー強度を際立たせる)。10.5℃提供。
SCORING ディスクリプター充足度チェック
Cross Analysis: 6人の統括トレンド
① 産地 & 品種サマリー
② エスプレッソ タクタイル比較
③ フレーバー傾向マップ
品種多様化:2024年ファイナルではゲイシャの独占が崩れ始めた。優勝者Jasinはアジ種(エチオピア在来種)+ゲイシャ、3位Ishitaniはカトゥーラ+ゲイシャ、4位Kawashimaはマラゲイシャ、5位Imはスダンルメ、6位Kissickはイエローブルボンと、多彩な品種が登場。
産地:コロンビアが圧倒的存在感(5/6名が使用)。パナマ・フィンカ・デボラは3名(Jasin・Simpson・Ishitani)が使用し、依然として最高品質ゲイシャの代名詞。
精製:嫌気性発酵が標準化。さらにサーマルショック(Simpson・Jasin)、酵母接種(Jasin・Kissick)、窒素マセレーション(Simpson)、2段階乾燥(Im)など、各選手が独自の精製イノベーションを提示。
タクタイル表現:2024年ルール変更(タクタイル体験の独立分離)を反映し、全6名がエスプレッソのウェイト+テクスチャーを明確に言語化。「シルキー」と「ジューシー」が2大テクスチャー表現として定着。
提供順の革新:3/6名が非標準の提供順を採用。Jasin(M→S→E)、Kawashima(M→S→E)、標準順は Simpson・Ishitani・Im・Kissick。エスプレッソを最後に「純粋な表現」として置く構成が優勝者と4位に共通。
ミルク構成:動物性と植物性のブレンドが主流(5/6名)。凍結蒸留技法が3名(Simpson・Kawashima・Kissick)で採用。Jasinは3種ブレンド+フードプロセッサーでの水分蒸発という独自手法。Imのみがロータリーエバポレーターによる牛乳100%濃縮。
技術的イノベーション:Simpsonの超低周波電磁波(ウェーブ)技術が最も革新的。Kissickの高密度化+凍結球体、Imの振動ディストリビューションツール、Jasinのフードプロセッサーによるミルク濃縮など、抽出前後のプロセスに焦点を当てたイノベーションが多数。
ストーリーテリング:優勝者Jasinのマインドフルネス実践(瞑想・歩行・深呼吸)が最も没入型。Kawashimaの折り紙メタファー、Simpsonの「絶え間ない改善」哲学、Kissickの「フォーマティブな体験」フレームワークなど、体験設計とストーリーの力が順位に直結。