World Coffee in Good Spirits Championship
Finals Presentation Analysis
2023 WCIGS ファイナル概要
2023年WCIGSは、台湾・台北の南港展覧館(Nangang Exhibition Center)で開催された台湾国際コーヒーショー(11/17〜20)内で実施。Preliminaryラウンド(Spirit Bar+Stage Presentation)を経て上位6名がファイナル進出。ファイナルではアイリッシュコーヒー2杯+デザイナードリンク2杯を10分以内に提供。Preliminaryスコアはリセットされファイナルのみで順位決定。
超過1秒ごとに1点減点(最大60点)。11分超で失格。Sponsors: Sanremo Coffee Machines / Macap Grinders / 1Zpresso / Vetti Coffee / Kavalan Whisky / Scotsman Ice
ファイナルラウンド 競技ルール要点
計4杯(2カテゴリ×2杯)
IC2杯+デザイナー2杯。提供順自由だが1カテゴリ完了してから次へ。
アイリッシュコーヒー
提供グラス(240ml)必須。コーヒー・ウイスキー・砂糖・無香料乳製品クリームのみ。
スポンサーアルコール必須
カバラン・ウイスキー使用必須。未使用でテイスト全項目0点。インフュージョン禁止。
10分+減点制
超過1秒1点減点。11分超で失格。粉砕・抽出はパフォーマンス中必須。
審査体制
テイスト2名+テクニカル/ビジュアル1名+ヘッド1名。
ボディ/マウスフィール評価
ドリンクのボディや口当たりが心地よく説明スタイルに合致しているかを評価。事前説明推奨。
材料の専門的使用
材料の準備法がテクスチャー・温度・視覚効果・フレーバーにどう影響するかの説明が求められる。
評価スケール
0〜6点(0.5刻み)。一部×2/×4重み付け。ICは「Creativity」「Commercially Applicable」の採点なし。
Rastislav “Rasty” Kasal(ラスティスラフ・カサル)
Finals — Rastislav “Rasty” Kasal (United Kingdom)
「何世紀にもわたり、私たちはバーやコーヒーショップでグラスを傾けながら互いの物語を共有してきた」という導入から、人生の各章をカクテルに重ねるプレゼンテーション。メニューは「本」の形で提供。コールドドリンク「第1章」は2016年にロンドンへ渡った際に訪れた名店『バー・テルミニ』のクラシックかつモダンなカクテルにインスピレーションを得た低アルコールの「コーヒー・アペリティーボ」。窒素ガス充填でプレバッチ→冷蔵保管の効率的なバーオペレーションを提案。アイリッシュコーヒー「第3章」はロンドン『ザ・サヴォイ』ホテルの『アメリカン・バー』での最初の仕事で恋に落ちたクラシックカクテルを7年かけて洗練したシグネチャーバージョン。コースターは実際のウイスキー樽から製作し、レザーコースターには「ツイスト」(ひねり)が仕込まれるなど、バー体験としての完成度が極めて高い。
第1章 — コーヒー・アペリティーボ
2杯分→1杯:ラム10ml×40%+アペリティフ7.5ml×15%+カンパリ5ml×25% = 約6.4ml純アルコール / 総量約75ml
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
第3章 — Irish Coffee
2杯分→1杯:カバラン15ml×40%+ブラントン7.5ml×40% = 約9ml / 総量約265ml
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
Tanpong(タンポン)
Finals — Tanpong (Thailand)
「私たちは境界線を打ち破り、コーヒーのあらゆる側面において進歩を生み出すべく努力している」という信念を軸に、農園レベルから始まる実験を共有するプレゼンテーション。コロンビア・マナンティアレス農園のオーナー、アンドレス氏と共同でピンクブルボン種に「乳酸菌接種(ラクティック・イノキュレーション)」という新しい精製技術を実験。コールドドリンクではクラシックカクテル「ネグローニ」をコーヒーでツイストした「実験的ネグローニ」を提案。ドリッパーフィルターの下にパラゴンボール(凍らせた石のようなボール)を配置してフルーツやフローラルのアロマを閉じ込めるという独自の抽出テクニックが特徴。ジンにはカスカラ・ローゼル・キンモクセイの花・ドライアイスで急速インフューズするデモンストレーションを実演し、精製プロセスそのものを競技台上で再現する構成が際立つ。カバランを「進歩のための実験」という同じ目標を共有するブランドとして紹介した。
実験的アイリッシュコーヒー
2杯分→1杯:カバラン15ml×40%+マスコバドシロップ10ml = 約6ml / 総量約125ml
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
実験的ネグローニ
2杯分→1杯:カンパリインフューズドコーヒー15ml×25%+ラム12.5ml×40%+ジン20ml×40%+コーヒー60ml = 約17ml / 総量約115ml
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
Danny Andrade(ダニー・アンドラーデ)
Finals — Danny Andrade (Australia)
「私のお気に入りの2つの思い出」をカクテルに凝縮するプレゼンテーション。アイリッシュコーヒーはクリスマスのフレーバーからインスピレーションを得た「クリスマスケーキ・アイリッシュコーヒー」。ケニア・ンガチャ農園の生産者マーティン・ムワンギ氏と3年前に繋がり、共同で「ハイブリッド・ナチュラル」と名付けた全く新しい精製方法を開発。コールドドリンク「モーニング・ミスト(朝霧)」は初めてパナマのコーヒー農園を訪れた際の早朝の霧と涼しく新鮮な空気からインスピレーション。「思い出とは、友人や家族と共有する特別な瞬間」という温かいメッセージで締めくくった。最後の材料は「母の愛」というユーモアとエモーションを両立した演出も印象的。
クリスマスケーキ・アイリッシュコーヒー
2杯分→1杯:カバラン15ml×40%+レッドブレスト7.5ml×40% = 約9ml / 総量約265ml
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
Morning Mist(朝霧)
2杯分→1杯:ラム20ml×40%+シロップ10ml+シロップ(ブドウ+カフィアライム)+エスプレッソ28g = 約8ml / 総量約60ml
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
Christos Klouvatos(クリストス・クルヴァトス)
Finals — Christos Klouvatos (Greece)
「2050年の未来の『50ベスト・コーヒーショップ』授賞式に招待された」というシナリオで、サステナビリティ(持続可能性)とサーキュラーエコノミー(循環型経済)に基づいたドリンクを提案するプレゼンテーション。ウォーム・コーヒーカクテル「Omotenashi(おもてなし)」は日本の「茶の湯」からインスピレーションを得て、ローズティーウォーターでコーヒーのフローラルなフレーバーを高め、地元ギリシャ産イチジクの嫌気性発酵シロップやハチミツの蒸留液などサステナブルな素材を活用。アイリッシュコーヒーではパナマ・エルブロ農園のゲイシャを使い「トロピカル・ビスケット・アイリッシュコーヒー」を構築。セージを燃やすリチュアル(儀式)の演出でギリシャの文化を表現した。
Omotenashi(おもてなし)
2杯分→1杯:ラム22.5ml×40%+スミレインフューズ2ml×40% = 約9.8ml / 総量約115ml
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
トロピカル・ビスケット・アイリッシュコーヒー
2杯分→1杯:カバラン推定20ml×40% = 約8ml / 総量約270ml(ウイスキー量は明示なし、推測)
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
Sion Wu(ショーン・ウー)
Finals — Sion Wu (Taiwan)
「ここ数年、大自然に没入する機会に恵まれ、素晴らしい体験とインスピレーションを得た」という導入から、コールドドリンクでは台湾の大自然(母なる自然)を環境に優しい自然素材で表現。エチオピア・ベンサ・ゲイシャの高い標高が台湾の大自然を思い出させるという接点で素材を選択。コーヒーリーフティー(コーヒーの葉のお茶)の氷でマンゴーフレーバーを引き出し、パンダンリーフ・松の葉など東南アジアの植物素材を活用。自身が見た高山の景色を再現する視覚的演出も。アイリッシュコーヒーは「一番好きな祝祭=クリスマス」からインスピレーションを得て、クリスマスケーキ(ベリー、レーズン、チョコレート、スパイス)のフレーバーを再構築。パナマ・アブーコーヒー農園のゲイシャ(モスト・ナチュラル精製)を使用し、レザーウッドハニーシロップと北海道産生鮮クリームで仕上げた。
台湾の大自然
2杯分→1杯:グラッパ15ml×40%+ラム10ml×40%+ヴェルジュ10ml×0% = 約10ml / 総量約94ml
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
クリスマスケーキ・アイリッシュコーヒー
2杯分→1杯:カバラン18.75ml×40%+ダッズハット6.25ml×40% = 約10ml / 総量約302ml
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
Marco Poidomani(マルコ・ポイドマーニ)
Finals — Marco Poidomani (Italy)
「まるで昨日のことのようですが、あっという間にクリスマスへと放り込まれました。メリークリスマス!」というクリスマスの暖かい雰囲気で始まるプレゼンテーション。アイリッシュコーヒーには家庭用コーヒーマシンでの抽出を選択し「家」の温かみを演出。コロンビア・ミラン農園のアンドレスと家族が4世代にわたって栽培するコーヒーに「窒素発酵培養(ナイトロ・ファーメンテーション・カルチャリング)」という新技術を使用。ホットドリンクではイタリアのクリスマスの象徴「パネトーネ」をテーマに自家製パネトーネシロップ(パネトーネ+液糖+レーズン+キャンディオレンジを24時間低温浸漬)を使用し、ジェリー・トーマス教授が発明した「ブルー・ブレイザー」(火炎ミキシング)と「ロール(スローイング)」という歴史的テクニックを披露。最後は「目を閉じて、願い事をして」というクリスマスプレゼントの演出で締めくくった。
Irish Coffee
2杯分→1杯:知多10ml×43%+カバラン15ml×40% = 約10.3ml / 総量約245ml
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
パネトーネ・ホットカクテル
2杯分→1杯:ラム22.5ml×40%+ベルモット15ml×18% = 約11.7ml / 総量約115ml
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
2023 WCIGS ファイナル 統括分析
6名のファイナリストが提供した計12杯(デザイナードリンク6杯+アイリッシュコーヒー6杯)のデータを横断的に分析し、使用されたコーヒーの産地・品種、アルコール度数、テイスト表現、提供温度、マウスフィール/テクスチャーの傾向をまとめました。
コーヒー産地の分布(全12杯で使用されたコーヒー延べ8ロット)
傾向:2023年はパナマとコロンビアが同率首位(各37.5%)で、産地の多様性が際立つ。パナマはChristos(2ロット)とSion(IC用)が使用し、特にゲイシャ種との組合せが主流。コロンビアはTanpong(ピンクブルボン)とMarco(ミラン農園)が使用。Rustyはグアテマラ(コールド)とコロンビア(IC)、Dannyはケニア(IC)とパナマ(コールド)とアフリカ産の選択も見られた。2024年のコロンビア一強(75%)とは対照的に、5カ国に分散。
品種の分布
(Rustyコールド)
(Marco)
傾向:ゲイシャが4ロットと最多使用で、2023年の品種選択を象徴。Christos(パナマ・ボルカンゲイシャ+エルブロゲイシャ)、Sion(エチオピア・ベンサゲイシャ+パナマ・アブーゲイシャ)がそれぞれ2ロットずつ使用。嫌気性発酵はほぼ全員が採用(マセラシオン、嫌気性ナチュラル、乳酸菌接種、窒素発酵培養、ハイブリッドナチュラルなど)し、発酵手法の独自性が差別化の核心。Dannyのケニア・SL28は唯一のアフリカ品種で「ハイブリッド・ナチュラル」という生産者との3年の共同開発が光る。
推定ABV分布(全12杯)
傾向:デザイナードリンクのABV範囲は8.5〜14.8%と2024年(5.5〜8.5%)より全体的に高め。特にTanpongのネグローニ(14.8%)とDannyのモーニングミスト(13.3%)が高アルコール。ICは3.0〜4.8%で2024年(3.5〜5.5%)とほぼ同水準。優勝のRustyはデザイナー8.5%(ファイナリスト最低タイ)と低アルコールの「コーヒー・アペリティーボ」路線を取り、コーヒーフレーバーを前面に出す構成で勝負した。
提供温度マッピング
● 塗りつぶし=液体温度 ○ 白抜き=クリーム温度
傾向:コールドドリンクは2〜5℃に集中し、Sionの2℃が最低温。IC液体温度は50〜60℃で、55℃が3名と最多。クリームは4〜7℃でDannyの7℃が最高。ホットデザイナーはMarco 42℃、Christos 50℃と温度帯に差。2024年と比較するとIC温度帯はほぼ同水準だが、コールドドリンクでSionの2℃という極低温提供が際立つ。
テイスト表現・テクスチャー・マウスフィールの傾向
フレーバー傾向:2023年はフルーツ/ベリーが11杯と圧倒的で、フローラル(8杯)がそれに続く。2024年のチョコレート系優勢とは大きく異なり、よりフルーツ指向。特にレーズン系(5杯)、チェリー(4杯)が頻出で、カバランのシェリー樽由来のドライフルーツノートがICの共通基盤。クリスマスケーキ(Danny, Sion)、パネトーネ(Marco)と冬の祝祭菓子のフレーバーも目立つ。
テクスチャー傾向:「滑らか」と「クリーミー」が最多で2024年と同傾向。窒素充填はRustyのみだが、ブルーブレイザー(Marco)、パラゴンボール(Tanpong)、コーヒーリーフティー氷(Sion)、ハチミツ蒸留(Christos)など各自が独自の手法でテクスチャーを操作。歴史的テクニックの復活(ブルーブレイザー)やサイエンス寄りの実験(乳酸菌接種)が共存する多彩な年。
抽出方法の傾向
(IC主流)
(コールド用)
(Danny IC, Rusty IC)
(Marco IC)
傾向:2023年はクレバードリッパーが圧倒的優勢(5杯)で、特にIC用に広く採用。Christos(35g:250g+46g:430g)、Sion(35g:350g)、Tanpong(40g:400g)がそれぞれ異なるレシピで使用。コールドドリンク用にはエスプレッソが主流(3杯)。Marcoの「家庭用コーヒーマシン」選択はテーマ(家のクリスマス)との一貫性を重視した独自の判断。粉量は19〜46gの広い範囲で、Christosの46g:430gが最大量。Tanpongのパラゴンボール通過抽出やRustyのロングショット(19g→65g)など、抽出テクニックの多様性も際立つ。
2023年ファイナル全体の傾向サマリー
パナマとコロンビアが各37.5%で並び、グアテマラ、ケニア、エチオピアと5カ国に分散。2024年のコロンビア一強(75%)とは対照的で、各競技者が独自のストーリーに合った産地を選択。
乳酸菌接種(Tanpong)、ハイブリッドナチュラル(Danny)、窒素発酵培養(Marco)、マセラシオン(Christos)、モストナチュラル(Sion)と全員が独自の発酵手法を持ち込み、精製プロセスが最大の差別化要因に。
Danny「クリスマスケーキ」、Sion「クリスマスケーキ」、Marco「メリークリスマス/パネトーネ」と3名がクリスマス関連テーマ。11月台北開催のシーズン感も影響か。カバランのシェリー樽ノート(レーズン、ドライフルーツ)がこのテーマに自然に合致。
Rusty「ベリーニ→コーヒーアペリティーボ」、Tanpong「ネグローニ→実験的ネグローニ」、Christos「茶道→おもてなし」と、既存のクラシックカクテルや文化的フォーマットをコーヒーで再解釈するアプローチが主流。
Rusty「本型メニュー+ウイスキー樽コースター+氷上のサイン」、Tanpong「ドライアイス+カスカラティー演出」、Marco「ブルーブレイザー火炎」、Christos「セージ燃焼リチュアル」と全員が五感に訴える演出を設計。
Rustyは「物語の章」という個人的なナラティブで構成。『バー・テルミニ』と『ザ・サヴォイ』という実在のバーでの体験を起点に、7年かけて洗練したICを披露。窒素充填によるプレバッチ運用の商業性、ジャージー牛クリームへのこだわり、ウイスキー樽コースターなど、細部の完成度で他を上回った。