World Coffee in Good Spirits Championship
Finals Presentation Analysis
2022 WCIGS ファイナル概要
2022年WCIGSは、イタリア・ミラノのMiCo Milano Convention Centreで開催されたWorld of Coffee(6/23〜25)内で実施。Preliminaryラウンド(Spirit Bar+Stage Presentation)を経て上位6名がファイナル進出。ファイナルではアイリッシュコーヒー2杯+デザイナードリンク2杯を10分以内に提供。Preliminaryスコアはリセットされファイナルのみで順位決定。
超過1秒ごとに1点減点(最大60点)。11分超で失格。Sponsors: Sanremo Coffee Machines / Tullamore D.E.W.
ファイナルラウンド 競技ルール要点
計4杯(2カテゴリ×2杯)
IC2杯+デザイナー2杯。提供順自由だが1カテゴリ完了してから次へ。
アイリッシュコーヒー
提供グラス(240ml)必須。コーヒー・ウイスキー・砂糖・無香料乳製品クリームのみ。
スポンサーウイスキー必須
タラモアデュー使用必須。未使用でテイスト全項目0点。インフュージョン禁止。
10分+減点制
超過1秒1点減点。11分超で失格。粉砕・抽出はパフォーマンス中必須。
審査体制
テイスト2名+テクニカル/ビジュアル1名+ヘッド1名。
ボディ/マウスフィール評価
ドリンクのボディや口当たりが心地よく説明スタイルに合致しているかを評価。事前説明推奨。
材料の専門的使用
材料の準備法がテクスチャー・温度・視覚効果・フレーバーにどう影響するかの説明が求められる。
評価スケール
0〜6点(0.5刻み)。一部×2/×4重み付け。ICは「Creativity」「Commercially Applicable」の採点なし。
Agnieszka Rojewska(アグニエシュカ・ロジェフスカ)
Finals — Agnieszka Rojewska (Poland)
「朝起きた瞬間から、何か素敵で楽しいことが起こるとわかる日がある」という導入で、審査員を華やかなパーティーへ誘うプレゼンテーション。帽子やスカーフで審査員自身をドレスアップさせる演出から始まり、アイリッシュコーヒーは「旅の準備」として、デザイナードリンクの「コーヒーシャンパン」はギャツビーのパーティーに到着した瞬間として構成。ミルク・クラリフィケーション(牛乳透明化)という高度なバーテクニックと、ドライアイスによるスパークリング効果を組み合わせた「コーヒーシャンパン」は、2019年から温めてきたコンセプトをファイナルで初披露。「時計がちょうど10分を指したときに飲んでほしい」というカウントダウン演出で締めくくった。2018年WBC優勝者による2度目の世界タイトル獲得。
Irish Coffee
1杯あたり:タラモアデュー10ml×40%+グレンフィディック15ml×43% = 約10.5ml純アルコール / 総量約280ml
レシピ構成(1杯あたり・推測)
コーヒーシャンパン
2杯分→1杯:ジン25ml×40%+柚子リキュール15ml×18%+アプリコットリキュール15ml×20%+キノットネロ10ml×25%+チョコレートリキュール10ml×25% = 約20.7ml / 総量約235ml
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
Vladyslav Demonenko(ウラジスラフ・デモネンコ)
Finals — Vladyslav Demonenko (Ukraine)
「ここまでは非常に感情的な道のりだった」という冒頭で、母国ウクライナを代表する誇りと感情を込めたプレゼンテーション。コールドドリンクは故郷ドニプロ近郊の夏の雨の日のイメージを再現。「ブーム(Boom)」と名付けた新テクニックで、ジン+レシチン+ヘリウムから「雲(クラウド)」を作り、飲む前に雲を吸い込むことでフレーバーが完全に変化するという多感覚体験を設計。アイリッシュコーヒーは約35℃という異例の低温提供で「キンダー・ピングイー」(ヨーロッパの人気菓子)を思わせる親しみやすい味わいを追求した。
Irish Coffee
2杯分→1杯:タラモアデュー10ml×40%+コンパスボックス10ml×43%+マッカラン5ml×40% = 約10.3ml / 総量約275ml
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
私の夢:ドニプロの近くの夏の雨の日
2杯分→1杯:パイナップルジン10ml×40%+オレオサッカルム10ml+酸ミックス2.5ml+桜コーディアル+エスプレッソ / 雲:ジン10ml×40%は別途吸引
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
Sheila Filipa(シェイラ・フィリパ)
Finals — Sheila Filipa (Indonesia)
「新しいクラシック・コーヒーカクテルを創り出すこと」を目標に掲げつつ、研究開発を深める中でその目標が変化していったプロセスを共有。アイリッシュコーヒーは「シンプルな冬のカクテルであり、材料のバランスに尽きる」という原点に立ち返った構成。インドネシア・スンバワ島の生ハチミツを使い55gという大量の甘味料が特徴的。コールドドリンク「GnT(ジン・アンド・ティキ)」ではティキカクテル文化とバリ島の神獣「バロン」の器を組み合わせ、パンダンリーフ・ヘーゼルナッツのオルジェー、乳酸水溶液、CO₂ドライアイスガンなど多彩な素材とテクニックを駆使。故郷バリの文化を器や演出で表現した。
Irish Coffee
2杯分→1杯:タラモアデュー10ml×40%+ティーリング25ml×46% = 約15.5ml / 総量約320ml
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
GnT(ジン・アンド・ティキ)
2杯分→1杯:スロージン12.5ml×28%+ディプロマティコ12.5ml×40%+リコール43 7.5ml×31%+乳酸水7.5ml+オルジェー8ml+エスプレッソ / 総量約105ml
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
Nelson Foo(ネルソン・フー)
Finals — Nelson Foo (Canada)
「風味の深い知識を使い高品質なビバレッジを作る人物。バリスタかバーテンダーか?」という問いかけで始まる知的なプレゼンテーション。ウォームドリンク「レイトナイト・ラウリーナ」では、カフェイン含有量が通常の1/4という希少品種ラウリーナを使い、深夜のデザートコーヒーを提案。ハリオ・スイッチの上下半分で酸味とボディを分けてコントロールする独創的な抽出テクニックを披露。アイリッシュコーヒー「カリへの帰還」は初めてのオリジントリップでの体験がモチーフ。コロンビア・カリのフィンカ・ポトシ農園で木から直接もいだバナナの甘さを再現し「バノフィーパイ」のフレーバーを目指した。3口の温度変化による味わいの変遷を丁寧に設計した。
Late Night Laurina(レイトナイト・ラウリーナ)
2杯分→1杯:カバランジン15ml×40%+パナレアジン5ml×43%+ディクタドールラム5ml×40%+ベルモット5ml×16% = 約10.95ml / 総量約98ml
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
カリへの帰還(Return to Cali)
2杯分→1杯:タラモアデュー10ml×40%+ライターズティアーズ15ml×40% = 約10ml / 総量約275ml
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
Danny Wilson(ダニー・ウィルソン)
Finals — Danny Wilson (Australia)
「WCIGSの10年間で大きな進歩を遂げてきた」という冒頭で大会の歴史に敬意を表しつつ、アラビカでもロブスタでもない第3の品種「コフィア・リベリカ」を復活させるプレゼンテーション。マレーシア・ジョホール州のジェイソン・リュウ氏による海抜60mのリベリカ種に、バリスタチャンピオンシップで開拓された非サッカロマイセス酵母+嫌気性発酵を適用。「他の人が『普通じゃない』と見るものを、私は『チャンス』だと捉えている」という信念を軸に、アイリッシュコーヒーを「究極のブレンド」として構成。コールドドリンク「エスプレッソ・メメント」はミニケグ(携帯用ビールタップ)とドライアイスで加圧・冷却するバーサービス向けのフォーマットを提案。最後は全員への乾杯で締めくくった。
究極のアイリッシュコーヒーブレンド
2杯分→1杯:オールドポトレロ10ml×40%+タラモアデュー12.5ml×40%+ハニーシロップ12.5ml+ブラウンシュガーシロップ12.5ml = 約9ml / 総量約280ml
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
Espresso Memento(思い出のエスプレッソ)
2杯分→1杯:六ジン15ml×40%+パッションフルーツシロップ12.5ml+スパークリングアップルジュース45ml+エスプレッソ / 総量約115ml
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
Christos Klouvatos(クリストス・クルヴァトス)
Finals — Christos Klouvatos (Greece)
「コーヒーカクテルを作る上で、何がインスピレーションになるのか?」という問いから始まり、2つの異なるアプローチを紹介するプレゼンテーション。コールドドリンク「ブドウ畑への旅」はワインとブドウからインスピレーションを得て、コニャック・ペドロヒメネス・シェリー・トカイアスー・オルジェーなどワインベースの材料で食後カクテルを構築。アテネの「Line bar」とスペシャルティコーヒー企業「Taf」のコラボレーションから着想。アイリッシュコーヒーはエル・ブロ農園のフォレストフルーツ(サワーチェリー、ワイルドベリー)のキャラクターから「ブラックフォレスト・アイリッシュコーヒー」を構想。ワインのアロマ雲でブドウ畑の霧を再現する演出も。翌2023年のファイナルにも進出し「2050年の未来」テーマで4位を獲得した。
ブドウ畑への旅(A Trip to Vineyards)
2杯分→1杯:コニャック×40%+PXシェリー×15%+トカイ×11%+オルジェー(詳細量は未明示、概算)/ 総量約100ml
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
ブラックフォレスト・アイリッシュコーヒー
2杯分→1杯:ティーリング推定15ml×46%+タラモアデュー推定10ml×40% = 約10.9ml / 総量約290ml(ウイスキー量は推測)
レシピ構成(2杯分バッチ・推測)
2022 WCIGS ファイナル 統括分析
6名のファイナリストが提供した計12杯(デザイナードリンク6杯+アイリッシュコーヒー6杯)のデータを横断的に分析し、使用されたコーヒーの産地・品種、アルコール度数、テイスト表現、提供温度、マウスフィール/テクスチャーの傾向をまとめました。
コーヒー産地の分布(全12杯で使用されたコーヒー延べ8ロット)
傾向:2022年はコロンビアが圧倒的優勢(62.5%)。Agnieszka(IC用パカマラ)、Vladislav(シドラ)、Sheila(スダンルメ)、Nelson(ラウリーナ+SL28の2ロット)と4名がコロンビア産を選択。特にカフェ・グランハ・ラ・エスペランサ農園がSheila・Nelsonと2名に共有される人気産地。パナマはAgnieszka(デザイナー用ゲイシャ)とChristos(エルブロ・ゲイシャ)の2名。Danny Wilsonのマレーシア産リベリカ種は大会史上でも異例の選択。2023年(5カ国分散)と比較するとコロンビア一強が鮮明。
品種の分布
傾向:2022年は品種の多様性が際立つ年。7種の異なる品種が使用され、ゲイシャ(2ロット)以外は全て異なる品種。特にDannyのリベリカ種(コフィア・リベリカ)はアラビカでもロブスタでもない第3の種で大会でも異例。Nelsonのラウリーナ(カフェイン1/4)も希少品種の積極活用。嫌気性発酵系のプロセス(カーボニック・マセレーション、アナエロビック等)は4名が採用し、2023年の全員採用への流れの先駆けとなった。AgnieszkaのXOプロセス(コニャック製法着想)も独創的。
推定ABV分布(全12杯)
傾向:デザイナードリンクのABV範囲は5.3〜12.5%で、Christosのワインベース構成(12.5%)が最高。ICは3.2〜4.8%とほぼ3〜4%台に集中し、Sheilaの4.8%(ティーリング50mlの大量使用)が最高。全体的にICのABVは2023年(3.0〜4.8%)と同水準。優勝のAgnieszkaはIC 3.7%、デザイナー8.8%と中庸なバランス。
提供温度マッピング
● 塗りつぶし=液体温度 ○ 白抜き=クリーム温度
傾向:コールドドリンクは2〜10℃と幅があり、Dannyの2℃(ドライアイス加圧)が最低温。Sheilaの10℃はコールド系で最も高い。IC温度で最も特徴的なのはVladの35℃で、通常のIC温度帯(50〜65℃)から大きく逸脱。Agnieszkaの65℃は最高温で「カプチーノと同じ55℃」にクリームで調整。Dannyは湯90℃使用で3口の温度変化(30→50→55℃)を設計。ウォームデザイナーはNelsonの42℃のみ。2023年と比べてIC温度の分散が大きい(35〜65℃ vs 50〜60℃)。
テイスト表現・テクスチャー・マウスフィールの傾向
フレーバー傾向:2022年はフルーツ/ベリーが11杯と圧倒的で、チョコレート系とキャラメル/甘味が各8杯で続く。2023年と比べてチョコレート系の出現率が高く(8杯 vs 5杯)、「ブラックフォレストケーキ」(Vlad, Christos)、「キンダー・ピングイー」(Vlad)、「ティラミス」(Christos)など具体的な菓子名での表現が目立つ。トロピカル系はDanny(リベリカ)、Sheila(GnT)を中心に5杯。
テクスチャー傾向:「シルキー」が最多(4杯)で2022年の特徴。ミルク・クラリフィケーション(Aga)、ナイトロ(Vlad)、ドライアイス加圧(Danny)、CO₂ガン(Sheila)と化学的・物理的テクニックによるテクスチャー操作が主流。Christosのオルジェー+キサンタンガムも増粘剤の専門的使用。Vladの「ブーム」ヘリウム雲やDannyのミニケグなど、バーツール/ガジェットの革新的活用が2022年の際立った特徴。
抽出方法の傾向
(コールド用主流)
(Sheila IC, Aga IC)
(Vlad IC)
(Nelson IC)
(Nelson デザイナー)
(Aga デザイナー)
傾向:2022年はエスプレッソが4杯と最多で、特にコールドデザイナードリンク用に広く採用。2023年のクレバードリッパー主流(5杯)とは対照的に、2022年はIC用の抽出方法が多様(フィルター、クレバー、V60、浸漬式)。Vladの70g:400gは異例の高粉量(クレバー)。Dannyの22g→50gロングエスプレッソ×4ショット+ペーパー濾過も独自。Nelsonのハリオ・スイッチ分割抽出(上下で酸味/ボディを分離)は2022年の最も革新的な抽出テクニック。Agnieszkaの45秒攪拌抽出も短時間で爽やかなフレーバーを引き出す独自手法。
2022年ファイナル全体の傾向サマリー
産地はコロンビアが62.5%と圧倒的だが、品種は7種と極めて多様。ゲイシャ(2)以外はパカマラ、シドラ、スダンルメ、ラウリーナ、SL28、リベリカと全て異なる。「産地よりも品種とプロセスで差別化する」という傾向が鮮明。
Danny(リベリカ:アラビカでもロブスタでもない第3の種、気候変動に強い)とNelson(ラウリーナ:カフェイン1/4の希少品種)が「忘れ去られた品種」や「特殊品種」を主役に据え、品種そのものがプレゼンのストーリーの中核に。
ミルク・クラリフィケーション(Aga)、ヘリウム雲「ブーム」(Vlad)、ミニケグ+ドライアイス加圧(Danny)、CO₂ドライアイスガン(Sheila)、キサンタンガム増粘(Christos)、ハリオスイッチ分割抽出(Nelson)と全員が科学的アプローチを採用。
ブラックフォレストケーキ(Vlad, Christos)、キンダー・ピングイー(Vlad)、ティラミス(Christos)、バノフィーパイ(Nelson)、チェリープリン(Sheila)と具体的な菓子名でテイスティングノートを表現する傾向。2023年のクリスマスケーキ/パネトーネ路線の先駆け。
Vladのヘリウム雲「吸引→10秒待機→2口目で全フレーバー変化」、Dannyの3口温度変化体験、Christosのワインアロマ雲、Sheilaのバロン器+パンダン供物、Agnieszkaのドレスアップ+カウントダウンなど、味覚以外の五感を活用した体験設計が全員に共通。
Agnieszkaは2018年WBC優勝者として2度目の世界タイトル。「コーヒーシャンパン」は2019年WCIGSで3位だった際に温めたコンセプトをファイナルで初披露。ミルク・クラリフィケーションという高度なバーテクニック、沖縄黒糖という日本素材の活用、「事前バッチ→多人数提供」の商業性提案、そしてパーティーのエンターテインメント性で他を圧倒した。