「おいしい」に正解はあるのか?Netflix「白と黒のスプーン」を見て考えたこと
Netflixの「白と黒のスプーン」。
配信された当初から存在は知っていたのに、なぜかその時は見ようと思わなかった。最近になって「めっちゃ面白いから」と聞いて見始めたら、案の定どハマりした。
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https://www.netflix.com/title/81728365
一気見するのがもったいないから、1日1時間ずつ見ている。
まだシーズン2の途中を見ているが、シーズン3の制作も決定しているようで、しばらく楽しみが続く。
個人的感想だが、**今まで見てきた料理番組の中で一番面白い。**断言できる。
そして、この番組を見ていて、どうしても書きたくなったことがある。
**「美味しい」とか「美味しくない」に、正解はあるのだろうか?**味わいの多様性について、自分自身が旅して気づいたことも含めて書いていこうと思う。
Netflixの料理番組にはまった経緯
Netflixには「地面師たち」や、今後配信予定で個人的に楽しみな「地獄に堕ちるわよ」など、面白いドラマもたくさんあるが、自分が一番最初にNetflixを契約するきっかけになったのは「ファイナル・テーブル」という料理対決番組だった。
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https://www.netflix.com/title/80201866
全世界のシェフが集まって対決する構成に引き込まれ、そこからNetflixの料理番組を追うようになった。これは飲食業に関わってきた人間の職業病みたいな反応かもしれない。
そして2022~2023年頃の番組だったと思うけど、まさに自分の職歴にドンピシャな番組があった。「ドリンク・マスターズ」。
https://www.netflix.com/title/81437299
アメリカやカナダのバーテンダー、ミクソロジストが集まってカクテルの技術を競い合う番組だ。これはマジで出たいと思った。(笑)
同じバーテンダー経験者の目線で見ると、「なるほど、そこはそうするんだ」と思うところもあれば、「これは違うんじゃないか」とツッコミたくなるところもたくさんあった。
バーテンダーやバリスタの人には参考になる部分もある番組だと思う。
今回の「白と黒のスプーン」は何が面白いのか

韓国の番組という事もあり、出演するシェフは韓国が中心で、韓国にルーツを持ち海外で活躍しているシェフも登場する。
そして出てくる**シェフのキャラクターがとにかく際立っている。**名前を名乗ることすら許されない「黒さじ」の料理人たちと、すでに一定の地位を得ている「白さじ」のシェフたちが対決していく構図。階級制度のような演出は韓国らしいのかな?とも思うが、そこから生まれるドラマが本当に面白い。
そしてNetflixの突き抜けた映像クオリティ。映像制作の仕事もやっている自分からすると、Netflixの最後まで視聴者を飽きさせない番組構成力と撮影技術はめちゃくちゃ勉強になる。料理の番組として楽しみながら、映像の教材としても見てしまう。
ネタバレは避けるが、出演していたシェフたちのお店にも行きたくなった。
シーズン1に登場するエドワード・リーというシェフの革新的に挑戦し続ける姿がカッコよすぎて、アメリカにある彼のレストランにも行ってみたくなったし、審査員のアン・ソンジェ氏が手がける、「MOSU」にも行ってみたくなった。
この番組を見ただけでグルメ旅をしたくなる。そのくらい心を揺さぶられている。
𝗠𝗢𝗦𝗨 Seoul MOSU Restaurant at Seoul www.mosuseoul.com
ここで書く「美味しい」の前提条件

ここで一つ、これから語る事の前提条件を整理しておきたい。
めちゃくちゃいい牛肉でステーキを焼く時に、表面が黒焦げになって肉が縮み上がるまで焼き続けたら、それは美味しくないと誰しも感じるはずだ。
レモネードを作る時に、レモン果汁15mlにシュガーシロップ15mlで美味しくなるところを、シュガーシロップを50ml入れたら甘すぎてほとんどの人が飲み続けるのはしんどいだろう。
上記の例はレシピの失敗、調理の失敗だと自分は思っている。
ここからの「美味しい」「美味しくない(微妙な味)」の話は、レシピ・調理の失敗や原材料の失敗がない状態を前提としている。
審査員と大衆で意見が真逆になる現象
ここからが、一番書きたかったことだ。
この番組はかなりフェアな審査をしようとしているのが伝わってくる。ブラインド審査も多用されるし、100人ほどの一般参加者が審査に参加する場面もある。
代表審査員は、ミシュラン三つ星を獲得したことのあるMosuのアン・ソンジェ氏と、大衆向けの飲食業態を多数開発してきた飲食業界の王様的存在として紹介されるペク・ジョンウォン氏の2名。
一番面白かったのは、代表審査員のアン氏とペク氏の2人が「美味しい」と思った料理と、一般大衆100人が「美味しい」と思う料理が、まったく真逆になったシーンがあったということだ。
審査員の2名。
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ペク・ジョンウォン - Wikipedia ja.wikipedia.org
最初は合計100人のシェフでスタートするが、2名の審査によって次々に脱落していく。最初に脱落していったシェフたちの料理は本当に調理を失敗していたものもあったのかもしれない。
しかし50人くらいまで絞られた段階で出てくる料理は、基本的に「美味しい」の範疇に入っているはずだと予測できる。それでも審査員同士で意見が割れるし、審査員と大衆で正反対の評価が出る。
「美味しい」の中でも意見が割れる。
正解のない味に対する好みの問題というのが分かりやすく映し出されていく。
味覚の科学で考えてみる
これは身近なところでも起きている現象だと感じる。
例えばSNSの投稿やGoogleマップの口コミ。すごく絶賛されているレストランやコーヒー屋さんに行ったのに、
自分はまったく「美味しい」と思えなかった。
むしろ「美味しくない」とすら思ってしまった。
そんな経験が誰しも一度くらいはあるのではないだろうか?
(そんな経験は無いよって人もいるかもしれないけど)
逆もしかり。
自分が「美味しい」と思うものは、誰かにとっての「美味しくない」なのかもしれない。
では、なぜ同じものを食べても人によってこれほど感じ方が違うのか。
この疑問を、AIを使って世界中の論文を調べて大まかに自分の脳内へ落とし込んだ。
遺伝的な部分
遺伝的な部分を見ていくと苦味や刺激系を強烈に感じやすい「スーパーテイスター」と呼ばれる人たちが全体の約25%いる。
またその真逆の「ノンテイスター」と呼ばれる人たちも約25%いるといわれている。
※厳密にはPTC/PROPという苦味物質への感受性分類とのこと
また、甘味に対する許容は子供の頃が高く、年を取るにつれて落ちていく。
逆に苦味に対しては、加齢による感受性の低下と生涯にわたる「慣れ」の蓄積があり、年配の方がブラックコーヒーを好むような傾向は経験と味覚変化の両方で説明できる。
女性の場合はホルモンバランスの変動でも味覚の感じ方が変わるという研究結果もある。
また、感情によっても、ポジティブな時は甘味が強く感じられて酸味が弱まり、ネガティブな時はその逆になるというデータもある。
そして、個人的に一番気になっているのが酸味の好みだ。
バリスタとバーテンダー、飲料畑を歩いてきた自分にとって、スペシャルティコーヒーにしても、カクテルにしても、「一**番意見が分かれやすいのは酸味」**ではないかと思っている。
酸味を感じ取る遺伝子は、甘味や塩味の遺伝子と比べて人によるバラつきが圧倒的に大きいそうだ。つまり酸味に関わる遺伝子は人類の中でも特に変異が蓄積されやすく、感受性の個人差が大きい味覚の一つだと考えられている。
後天的な部分
遺伝だけではない。生まれ育った食文化など、後天的な部分も大きいと思う。
例えばタイのように、強いスパイスやハーブを日常的に多用する食文化の中で育つと、味覚感度そのものが後天的に変わっていくと考えることができる。つまり味覚の個人差は、遺伝と環境の掛け合わせで生まれている。
日本で生まれ育った自分が、これを強く感じたのは世界を旅するようになってからだった。
直近の5年間は世界を旅する時間を沢山作った。
旅先の国で人気のあるコーヒーショップやバー、そしてミシュラン星付きのようなファインダイニングも、財布には痛いけど自己投資と割り切って訪れてみた。
その中で体感したこと。
例えばタイ・バンコクのミシュラン1つ星レストラン「Le Du」で食べた料理は、個人的に料理の味が全体的に濃く感じた。
アジアベスト50のレストラン1位を受賞したこともあるLe Du

斬新な料理も多く、美味しいとは思うのだが、味が強くて食べ進めるうちに少し疲れてくる印象が自分にはあった。あくまで個人的意見であるし、これこそが「美味しい」の多様性なのだと感じた。
もちろん素晴らしいレストランだったことは間違いないので、気になる人は是非行ってみてほしい。
Ledu Le Du actually comes from a Thai word “ฤดู”, a synonym for th www.ledubkk.com
そしてバンコクの街中でフラっと入ったカフェでは「甘っ」って叫んじゃうような強烈に甘いコーヒーのアレンジドリンクが出てきたし、バーでは酸味がシャープに感じるカクテルも多かった。とにかく全体的に味が強い。
そしてドバイを訪れたときも、タイほどではなかったが、やはり全体的に味を強く感じた。ただ、ドバイの食文化は多様な印象を受けた。
ドバイの2つ星レストラン ROW ON 45
ROW ON 45も自分には少し濃い味に感じた
もちろん、このROW ON 45も最高の料理体験だったという事はお伝えしておきたい。↓
https://www.rowon45dubai.com/
一方、日本でもミシュラン星付きのレストランへ行くことがあるけど、個人的に味わいは繊細で複雑に感じることが多い。
ちなみに従来型の通常営業終了が発表されてしまったけど、デンマークのnomaでフルコースを食べた時も、全体的にとても繊細な印象があった。
nomaはペアリングのノンアルコールドリンクにも「執念」とも言える強いこだわりを感じた
余談ではあるが執筆時点の現時点で、人生史上最高のファインダイニング体験はどこでしたか?と聞かれたら「noma」と答えると思う。
プラシーボ効果的な部分
さらに味覚以外の要素もある。2008年のfMRI実験では、同じワインに5ドルと45ドルのラベルをつけて飲ませたところ、味そのものの強さは変わらないのに、「美味しい」「心地よい」と感じる度合いだけが上がったという研究結果もある。
ここまでをまとめても、遺伝、性別、年齢、ホルモン、食文化、感情、価格情報。これだけの変数が絡み合って、人はそれぞれ違う味を感じている。
相手の味覚レンジを読む力
今日書いたことは10年前の自分には書けなかったことだと思う。世界を旅していろんなものを食べたり飲んだりする経験を積み重ねるほど、「美味しい」「美味しくない」という感覚に対してすごく多様性を持って考えないといけないと感じるようになった。
今、自分はお店に立って働いているわけではないが、目の前にいる相手は何が美味しいと思う味覚のレンジなのか、それをヒアリングして判断できるようになると強いよねと改めて思った。
結局、調理の失敗やレシピの失敗でない限り、
「おいしい」に正解はないのではないか?
「白と黒のスプーン」を見て、ジャッジの意見が割れ、ジャッジと大衆の評価が真逆になる瞬間を目の当たりにして、改めてそう確信した。
本当に味覚は面白く奥深い世界。
永遠の沼。
この記事を読んで思ったこと、あるいは「白と黒のスプーン」を見た感想があれば、気軽にコメントを残してほしい。見てない人は「白と黒のスプーン」を一度ご覧あれ。
それでは!